アラハンコンパ5th

  • 活動日:2020/8/8
  • 参加者:Joji Ikeda,Kazuto Goto
  • 目 的:ロープワーク体験およびドローン捜索

2ヶ月ぶりの登山は、前回登った宮崎市南部の双石山に隣接する石炭山へ。標高わずか294mの低い山ですが、挑戦するには大きな理由が。前回の登山で第二展望台からの空撮中にドローンを紛失した(!)事は前回の活動報告でお知らせしたかと思いますが、ドローンと通信が途切れる時点で追跡した最後の座標がコントローラーに残っておりました。紛失後メンバーの協力で双石山へのルートを外れて石炭山方面へ1時間ほど捜索しましたが、行く手を高い崖に阻まれてリタイヤ。場所が分かっているのに行けなかったモヤモヤ感が残ったのは、言うまでもありません。

 数日後南九州登山隊リーダーのG氏が、悪天候の中わざわざ単独で石炭山に登頂し、行ける所まで探索して下さったのですが、蛇や猪、猿にも遭遇して、ともかく一人では危険という判断。私自身はドローンを買い替えたこともあってそこまで執着はなかったのですが、一定の判断を下さぬまま他の山に登ることについては多少引きずっている事もあり、実際のところ座標に墜落しているかどうか興味もあったため、今回捜索への同行を要請した経緯になります。

 G氏にはさらに、わざわざ海外から個人輸入で大量のレスキュー装備まで手配して頂きました。その御恩に報いるべく、私自身もGARMINのGPS(etrex x30)とスリング、プルージック、カラビナなどのレスキューキットを調達。カメラは小さなGR3の携行に留め、火の要らない1日分の簡易食料と、過去最大量の水4.5Lで熱中症対策も万全。目標をドローン消失座標に到達することのみ定めて、朝8時に加江田渓谷の丸野駐車場を出発しました。しばらくは加江田渓谷の美しい渓流を眺めながら遊歩道のウォーキングでしたが、登山道に入るとこれまでに経験したことのないような急勾配の連続で、三点支持でないとクリアできない難所ばかり。直登か登山道か区別が付かない獣道みたいな進路でしたが、ストックも二本持ちに戻して腕力を活かし、疲れない事と、無理な動きで関節を怪我しない事に留意して、とりあえず石炭山の山頂を目指しました。

 小まめな水分補給と、数少ない平坦地での休憩。全行程が森の中なので直射日光の影響は少なく、座って佇むと渓谷の適度に湿った清涼な風に癒されます。さらにモバイルファンで増幅すると気持ち良すぎて昼寝しそうになりますが、基本的にはキツイ事ばかりの登山でも、休憩や食事は地上より何倍も楽しい!登山あるあるですかね。幾度かの休憩を経て、2時間ほどで山頂に到達。眺望は皆無なので記念写真だけ撮ってから更に双石山方面に進み、ドローン座標最寄りの地点で、装備にかかりました。

 まずは用意した240cmのスリングを腰から回し、股下からのラインと結んで簡易ハーネス(安全ベルト)として装着。予め出発前に練習していたので、プルージック(ロープに結んで昇降を補助するロープワーク)もすぐに取り付けられるよう整え、簡単な食事(ヤマザキランチパック・たまご)を取り、深呼吸して登山道からダイブ。直線距離で200m、高度200m下のGPSに登録した座標に向かって、恐る恐る進み始めました。

 序盤は緩やかな傾斜で、木立もまばらな森の中でしたので、滑らないよう重心移動に留意しつつ、ゆっくり進みます。ほどなく登山道でない森の特徴として、異常に足場がもろいのと枯れ木が多い事が分かりました。登山道なら踏み固められてあるので足場っぽいポイントはだいたい足場として使えますが、天然の野山だと踏まないと分からない事が多く、足が着かずにそのままずるずると滑落する障害が多発。手の支えとなる立ち木も、一見丈夫そうでも枯れていたり腐っていたりして、バキッと簡単に折れたりしました。これも登山道であれば、現存する枝や木はこれまで補助として活用されていたからこそ残っているので、手に取れる位置にあるなら活用しても問題ない可能性が高い。つまり枝や足場任せの一点荷重が大変危険と認識したので、傾斜がひどくなってきた辺りで、確実に荷重を任せられるロープの活用に着手しました。

 G氏が50mものロープ(登山用ザイル)を輸入し、かつ20mにカットして持ち込んで下さいましたが、カラビナやヘルメットまで含めると安全装備の重量だけでも相当なもの。支点となる木を見つけて素早くセットし、ロープによる下降を実現させてくれたのは元救難隊ならではの経験と技術ですが、今回は甘えまくってしまいました。それでも先に降りるのは自分なので、まずは獣道を探し、ない場合は木の根や岩など足場になりそうなポイントを探す。ロープの支点に使えそうな木を右回りで迂回するなどリーダーのルートにも配慮しつつ、ロープを頼りに降下。ロープの長さ半分の10m毎に交互で降りる尺取虫のような動きで、グイグイと座標に近づきます。

 他にも足場がない場所は稜線沿いに迂回したり、崖に近い急勾配であれば懸垂下降という、専用の器具を使った方法で真下に降下するなど、実験を兼ねてクライミング装備を潤沢に活用。G氏の目的は私の補助と、新装備の試験運用を兼ねていましたが、課題も見つけられ、大いに満足して頂けたようです。そしてもはや、行けない道などない!俺たちの軌跡が道になるぅという、進めば進むほど培われる自信と経験、さらに確実に座標に近づいている高揚感もあり、疲れを感じさせない行程でしたが、2時間ほどでついに、目標座標にたどり着きました。

 座標地点は50mはありそうな崖下の窪地で、広葉樹の森。恐らくは強風に抗って急激に消耗したバッテリーが悲鳴を上げて、機体のAIは私の回復操作を振り切って現在座標からの強制着陸を選択。恐らくは風に流されながら崖の影に入り、電波が途絶して最終座標を残した模様。機体の動きとしてはその後も風に流されるか、あるいは墜落したとしても空を覆い隠すほどの枝葉なので、着地しているかすら確実でない。双眼鏡も活用して1時間ほど周囲を捜索した結果、機体を見つける事はできませんでした。まぁ予測通りで落胆よりも達成感の方が大きく、むしろ「座標を寄越せ!行ってやるから!!」なんて大言壮語を吐いてしまいそうなほど、充実感を覚えました。座標にはひときわ目立つ神秘的な巨木が屹立して、まるで我々の到着を待ち望んでいたよう。道中にも誰も見た事がないかもしれない、双石山で見たような奇岩も見つかり、これぞ幼少期から憧れた「探険・冒険・男のロマン」だったのかもしれません。

 好奇心のまま道なき道を歩んで目標は達せられましたが、さて、帰路をどうしようか会議が始まります。確実なのは軌跡を逆に辿る事ですが、これまで断崖に近い場所も降りてきたため、ロープなしで登れるか微妙。最寄りの登山道まで歩く事も考えましたが、ここに来て一番のダメージが、重装備を運搬したリーダーの体力で、少しでも楽そうな道を選んだ結果、そのまま県道に向かって降りることにしました。登山中にはぐれた場合の鉄則は上に向かって登る事(登頂できれば必ず下山用の登山道があるため)ですが、GPSや等高線で判断しても県道まで直線1km、高度差50mほどしかなさそうだったので、GPSで進路を判断してそのまま進みます。高度が下がるにつれて植生が変わり、ラスト50mはシダやツタが生い茂る視界ゼロの藪が続きましたが、この時点で私達は少々命の危険を覚えていたので、蛇の恐怖も吹き飛び、必死で藪を掻き分けます。最後には視界が「ズドーン!!」と開けて、以前双石山からの捜索中に目撃した森林伐採の跡地にたどり着いた時は、そりゃあもう喝采ですよ!いいですね、生きてるって。

 ハイ・テンションから解放されて、お互いニコニコしながら感想戦?を偲びつつ、重機の軌道を下山しましたが、実はこの軌道が最後の曲者で、2度も行き止まりにぶち当たって引き返したり、崖崩れもちらほら。足下もおぼつかないガレ場と遮るものがない直射日光にも晒されて、辛うじて残っていたスタミナも急速に失われていきます。県道にたどり着き、アスファルトを踏みしめた何とも言えない安心感と冷え冷えの自販機に出会えて、またもや文明の有り難さが身に染みました。結果的に前回同様、駐車場から離れた場所に下山しちゃいましたが、今回は水分補給や体力温存が比較的うまく行った私が意外にも余力があったので、装備を全て外し、背負えるクーラーバッグにハイドレーション(水筒)だけ入れて、駐車場まで1.8kmの道のりをラスト・ラン。車で引き返しリーダーを乗せて、15:30に無事丸野駐車場へ帰還しました。

 本来であれば駐車場に隣接する公園で調理してランチを楽しむ予定でしたが、私も体力を使い果たし、着替えて車のエアコンに浸ると空腹も感じなかったので、そのまま解散。道の駅山之口で30分仮眠し、夜8時には帰宅しました。甘いものを食べたくなり、家族への土産も兼ねて近所のシャトレーゼに寄りましたが、チョコバッキーとしっぽまであんは、洋風と和風アイスにおける2トップであると報告しておきます(個人の感想)

 装備に関してですが、ヤブ蚊がすごいと聞いていたので、アースノーマットと服の上から防虫スプレーをまんべんなく。さらに首を冷感タオルで巻き、帽子の下にも冷感パッドを被ったためか一度も蚊に刺されず、蜂に2度ほど付きまとわれ、一回は軽く刺されかけましたが痕は残らず痛みもなし。猿の鳴き声は聞こえましたが猪にも蛇にも遭遇しませんでした。やはり複数名で声を掛け合いながら進んだのが功を奏したのかもしれません。ちなみにタオルやパッドは汗を吸い取る役割も果たし、休憩ごとに絞ったら一リットルほどの汗を観測できました。毒虫の毒を吸い出すポイズン・リムーバーに、傷を開くためのオピネルナイフ#9、足掛かりがない場所を歩くためのチェーンスパイクも使用なし。地味に役立ったのは雑誌MONOMAXの付録で入手したMarmotの背負える保冷バッグで、この中に保冷用の凍ったペットボトルとハイドレーション、食糧を入れたおかげで、最後まで冷蔵庫として機能しました。今後もギアへの欲求は尽きる事はないものと思われますが、今回の経験で無理と思っていた冬山樹氷撮影とロック・クライミングが現実味を帯びてきました。今回減量する余裕がなかったので、筋力体力基礎代謝を向上し、内臓脂肪を減らして、名実ともに身軽になっておきたいものです(笑)

おみやは大事

 なお今回の挑戦は万人におすすめできるものではありませんので、熟練者の指導や同伴の元に行うべきもの。屋久島でも登山者が遭難したり、先週私が種子島を発って1時間後に、泳いだ海から数キロ離れた場所で子供が遭難していました。遭難からいかに身を守るか熟慮しつつ、準備と装備を整えて、謙虚な気持ちで大自然に遊んでもらいましょう。