千聖展と私

2020/10/18より、12月を除く1月末まで、鹿児島市天文館のShop&ギャラリーサムシングにおいて開催される千聖展2に出展しています。ギャラリーポランカで開催された前回の千聖展では、A3縦サイズの和紙プリント「転生・ミカエリビジン」を出展しましたが、今回は全紙横サイズのコットン紙プリント。しかもモノクロ仕上げという難易度の高い挑戦で、ここに至るまでの経緯が長い。以下、過去記事。


 ポートレート(肖像写真)というジャンルがありますが、ポートレートを撮る写真家はだいたいこだわりさんで好奇心旺盛で魅力的な方が多く、普段乗り物や風景しか撮らない私にとっては、ポートレートを撮りたいというよりも、ポートレート写真家と沸きたい!という、邪な企みがあったように思います。

 特に楽しかった思い出は、一人または数名のモデルさんを複数のカメラマンで囲んで撮る、いわゆる囲み撮影会ですが、これはポージング指示やモデルさんとの距離を縮めるコミュニケーション術を教わりつつ、絞り、焦点距離、画角、背景、表情、光と影など、自分好みに調整していく作業。自分好みにフィットしてきた瞬間は、嗚咽に近い魂の叫び。よくベテラン写真家がモデルさんに「いいね!その調子!」と声を上げるシーンをご存じかと思いますが、腕はともあれ、出ちゃうんですね〜声がっ!

 初めてポートレート作品を出展した2020年初頭の千聖展の意図としては、やはりポートレート写真家との交流でしたが、まずは撮影に誘って頂いたKさんに感謝で、出張続きで身動きが取れない私に合わせて、苦労して撮影日を調整して頂きました。薩摩川内での撮影は千聖さんのお友達のマタニティフォトから始まったのですが、川内川の河川敷や神社、公園や森の中を巡って、本当に楽しい1日でした。

 何より、それまでネット・アイドルとして電脳世界の存在であった千聖さんと初めて会ってコミュニケーションを取り、魅力を引き出すために努力して作品を作っていく過程は、これまでの盗撮に近い独善的な撮り方ではなく、どうしたら自分にとって納得がいく作品になるだろうかとひたすら考え、試し、シャッターを押す。作品に対しモデルさんはもとより、ギャラリーからも評価を得られるのが理想的ではありますが、まだ自分の達成感と客観的評価が一致する確率が低いので、そこまでは求められません。ただ日の落ちかけた現場で、自分の感性にフィットするシーンに近づき、微調整の上、はっきりと狙ってシャッターを切った経験は、得難いものでした。

 またこの撮影で、初めてモノブロックと呼ばれる、高出力タイプのストロボを使いました。これまでは普通のクリップオンストロボにリモートレリーズでのワイヤレス撮影でしたが、2019年夏の糸島撮影会で威力を目の当たりにし購入。出力が高い事とチャージタイムが短い事が大きな武器となり、夜間はもとより、日中でも使い勝手の良さを痛感させられました。僕はやはりヒトよりも自然が好きで、自然風景とのマッチングを撮りたい。モデルの千聖さんは存在感が突出しているので、僕の腕では画角の1/4を超えると、モデルさんに奪われて背景がどうでも良くなってしまう。よく良い(慣れた?)モデルさんを撮るといつの間にか撮らされてしまうと言われますが、この時は、主導権を握り続ける事を重視したものです。

  写真に付けたキャプションは「転生・ミカエリビジン

妖艶な木を見つけた。妖艶な木の精が、誘うように消えていった夢中で追いかけたくもあり、まるでその場に根が生えてしまったかのように、佇んでいたくもあり。夢うつつ。

  まず手前の木に興味が行き、次に奥の木がいいなと思いました。他の写真家にポーズを取っている千聖さんを尻目に構図を作り、撮る直前に目線を要求。微調整して仕上げました。マンツーマンではこんな余裕は生まれなかったかもしれませんが、この日はカメラマンが3名いたため、自分のタイミングを作れたように思います。KさんとYさんにも感謝ですね。

 そしてある程度自信を持って仕上げた作品を、当時単身赴任していた熊本のアパートから鹿児島の自宅PCを遠隔操作して、カメラのキタムラ・ネットプリントにデータ送信。高松でクリスタル・プリントした作品を天神の店舗で受け取って、そのままポートレート準備室という北部九州を中心としたポートレート写真家の勉強会に初めて持ち込みました。

 プロカメラマンのN先生に講評を頂いたり、ベテランポートレート写真家の皆様にアドバイスを頂いたりしましたが、何が嬉しいって、池田さんらしい写真だ!という声を頂いたこと。あまり意図はしてないつもりでしたが、長く撮っていると、作風と言いますか個性が作品に現れるのだそうです。これまでドアップで撮った作品がどうにも没個性を感じて気に入らず、今回の表現となったのですが、できればドアップでも日の丸構図でも、ギャラリーを唸らせる作品を撮りたい。ただそれは、流行りの顔認証ミラーレスや85、135mmのロング単焦点などが有利だと思っていて、資産の都合上PENTAXという超マイナーブランドで勝負せざるを得ない自分としては、できる範囲で頑張ったと、自分を褒めたい。

 自虐発言はともかく、もう一つありがたい指摘が、「この作品は和紙プリントで格が上がる!」でした。昨年のリアルポートレートで、和紙プリントで選抜された実績あるTさんの指摘に素直に従い、ネットでインクジェット和紙プリント可能な業者を探してプリント依頼。そこまで経費と調査と時間をかけて、初のポートレート出展を果たしたのであります(号泣)

 ただそれだけではなく、MさんやHさんに促されて出展した2019年2月の横浜御苗場でも、エプソンやピクトリコのセミナーで和紙やセミグロスなどインクジェット専用紙でのプリントを体験した事が大きく、その後の打ち上げでTさんに紹介して頂いたこと、Tさん率いるFixtyle Portrait Fukuokaのメンバーと知り合い、お付き合いが始まった事。そのような過程を経て、風景と鉄モノ専門だった私が、少しづつポートレート撮影への興味を高めていったのです。  

-以上、千聖展の覚え書き


 ポートレート(肖像写真)と自分との関係ですが、撮るのは好きですが作品作りはちょっと意味が分からないという感じで、ヘアやメイクを整えてドレスを着せて、訳ありな背景を選んでバチッとストロボを焚くという工程そのものが、基本的に億劫だという認識。頭の中に描いた構図を作るという作業が、できない人だと思われます。
 
 前回の展示も、お誘いを頂いた時に悩みました。展示用の作品をどうやって作れば良いか分からず、結局は写真仲間のK氏の撮影に同行して、おこぼれを頂いたようなもの。ただ、何とか作品を撮らなきゃいかん!と焦りつつもシャッターを押し続けている間に、ふっと焦点が合って来るかのような、いわゆるインスピレーションが降って来る瞬間があります。前回は、日没が迫る撤収間近、まず好みの背景を発見し、その奥でK氏に撮られている彼女にピンと来て、パッと指示を出せたように。ポートレートに関しては、まぁこんな感じで行き当たりばったりでした。

 今回も悩みましたが、最初から写真仲間A氏との協作を見込んでいて、撮るまでにLINEで色々とアイデアを出し合いました。出展者リストには九州を代表する写真家が並び、いわゆる「作品撮り」での勝負なら到底及ばない。だったら、前回からの知り合いである事を生かして「素の」千聖さんを撮ろうという事で、意見がまとまりました。場所は彼女の住まいに近いさつま町の観音滝公園で、夏休み中の息子さんも連れて来て頂き、川で楽しく遊ぶ様子をスナップ。これはまぁ、楽しかった!千聖さんが息子さんを溺愛する様子がよく分かり、初めは知らないおっさん二人に囲まれてドギマギしていた息子さんも次第に打ち解けて、母子二人だけの空間に。その瞬間をバチッと切り取ったのです。

 小道具も準備し、何度もリテイクを繰り返したのでいくつか手応えはあったのですが、結果的に小道具を活かしたのはA氏の方で、私は撮影の合間に息子さんを携帯で撮っているシーンをチョイス。最愛の息子さんを携帯の画面越しに見つめる千聖さんが、たまらなく美しく見えたのです。まんざらでもない息子さんの横顔も絶妙で、極めて精度の高い画角となりました。あえてモノクロに仕上げたのは、これから先、いつこの写真を見つめたとしても、あの時の素敵な時間が脳内で極彩色で蘇るようにという願いを込めて、あえて色を抜きました。

 最近モノクロやセピアなど彩度を下げた仕上げを好むのは、2019年11月のPENTAXミーティング100周年スペシャル参加が影響しているのかも。プロカメラマンの佐々木啓太氏より「まずカメラの設定をモノクロにしてください」からタウンスナップのワークショップが始まり、ひたすら光と影だけを見つめる修行。初めて立体感や陰影を意識し、写真がこんなにも難しく、そして楽しいものだと教えていただいたものです。

 自分でも納得いく仕上がりを確認してデータを千聖さんに送ったところ、プリントを引き受けて頂いた鹿児島県写真協会の村上光明会長が「特別に北米直輸入のコットン紙でプリントしよう!」と仰って下さいました。今年の南日本写真展で記念大賞を受賞された山崎淳子氏と同じ用紙だそうで、まるで入選した私の副賞みたいな成り行きになってしまいましたが、自分のチャレンジを評価いただいた結果で、ありがたい話です。

 長くなりましたがまとめますと、苦手なジャンルであっても懸命に知恵を捻り、手持ちの最高の技術を活かしてまじめに取り組んだ結果、良い作品に至ったという事を言いたい。おそらくは他の出展者の方も自身と作品を見つめて、最大限の努力を注いで来たと思われます。つまり千聖展2は作家が熱を込めたスゴイ作品が集まっているので、入場料¥500払って見る価値があるのです。写真家だけでなく画家やデザイナーさんもそれぞれの領域で多面的に捉えた作品を展開。絵画や動画でも楽しめますよ。

 私は初日の夕方見に行きましたが、光栄にも私の作品は入り口から二番目、ポスターに採用されたT氏の作品の次に掲示してありました。他の作品より極めて地味ですが、狙い通りの仕上がりに満足。私と同時に作品を撮ったA氏の作品も彼らしさが出て素晴らしかったし、個人的には藤田氏と児玉氏の作品に釘付け。他の皆様も作家性が出ていて、努力が透けて見える感じ。プリントの統一感もよかったと思います。美術チームもカラフルポップで、千聖さんのキャラクターが存分に出ていました。おしゃれなギャラリーも鹿児島らしからぬ垢抜け感で、都内と言われても通用する?かもしれません。この日作家や美形モデルさんが多数いらっしゃったので、余計眩しかったのかも。とりあえず一度はご覧いただければ幸いです。

 また11/03(火)~11/08(日)は鹿児島市の黎明館にて、鹿児島の写真家グループが一堂に会する第44回鹿児島合同写真展が開催されます。私はグループ活動をしていないため出展しておりませんが、入場無料なので、是非ご覧ください。