写真集の解説について

前回ご紹介させて頂きました御苗場vol.28出展記念写真集の解説をさせて頂きます。大まかに項目を分けますと、退役までファントムを運用していた第501偵察飛行隊、第301飛行隊、第302飛行隊、飛行開発実験団所属機をベースに、宮城(松島)、茨城(百里)、岐阜(岐阜)、福岡(築城)、宮崎(新田原)の各地で撮影したもの。航空祭が主ですが、仕事の合い間に訪れたローカル撮影や、近隣住民対象のナイトフライト見学会、招待者のみ参加可能な前日予行など、いろいろなコネクションを駆使して撮り溜めた貴重な記録になります。

 表紙は宮崎県児湯郡新富町、航空自衛隊新田原基地のランウェイ10エンドに着陸直前のファントムを真下から捉えたもの。巨大な機体が一瞬でアプローチに掛かるためシャッターチャンスが難しい場所ですが、逆光越しのシルエットで押さえました。戦闘機らしい鋭角なラインが見て取れます。1ページ目は2019百里航空祭前日予行での、オープニング・フライパス。航空祭は前日予行が快晴で当日は崩れる確率が高くこの時も定石通りでしたが、やや遅れて会場入りしたため、通路を歩きながら慌てて撮影した思い出が。次の青い機体は301飛行隊創立40周年記念塗装機で、白と黒は302飛行隊のラストフライト記念塗装。岐阜飛行開発実験団の301号機特別塗装に301ラストフライト黄色塗装と、のっけからスペシャル・マーキングで固めてみました。とりわけ301飛行隊ラストフライト特別塗装の黄色カエルは人気者で、全国各地の航空祭を飛び回ってくれました。

 2ページ目は501偵察航空隊のパイロットとコンバット・ブレイクの写真で、私がガッツポーズをこさえつつ押さえた貴重な瞬間。このような完成度の高い作品を撮るには挙動に意識を集中させつつ、タイミングを掴む感覚が求められると思います。パイロットの写真はInstagramに掲載した時、作詞家の小室みつ子氏からいいねを頂き、2020年にSNSで流行したGet Wild退勤(退社時のドアが背後で閉まると同時に「シティーハンター」テーマソングのGet Wildを再生すると爽快感に浸れるらしい)にぴったりの光景だと思ったので、タイトルをGet Wild ‘19と名付けました。ちなみに名付け前にデブリーフィングというタイトルで第3回あいち航空ミュージアムフォトコンテストに出品したところ、佳作に入賞させて頂いたおまけも。この作品は2021年4月28日(水)~6月28日(月)まで「あいち航空ミュージアム1階、飛行の教室入り口付近」で展示されます。

 コンバットブレイクはパイロットが離陸方法を管制塔にリクエストして、TACデパーチャーが許可された場合に離陸後散開する機動で、上空から迫る敵機の照準を迷わせる効果があります。このブレイクの瞬間(俗にパッカンと呼ぶ)をカメラに収める事は多くの航空機ファンが憧れますが、ついに新田原エアフェスタ前日予行で実現しました。ランチェン(Runway change:滑走路運用方向反転)やTACという無線を聞いていたお陰でブレイク予想ポイントに先回りできたのです。エアバンドレシーバーは必携ですが、この時は折り畳み自転車も大活躍しました。4ページ目はさらに501飛行隊を取り上げ、洋上迷彩と呼ばれる珍しいブルー迷彩を百里救難隊の救助展示と絡めたり、普段は機構が痛むので折り畳まない翼端を、もう飛べなくなったファントムが折り畳んでいたり。空母艦載機だった頃、狭い格納庫や甲板に詰め込むためのシステムでしたが、動けないよりもパイロットが操るシーンの方がカッコいいですね!

 6〜9ページは近隣住民のみ対象の新田原基地ナイトフライト見学会に応募して当選した貴重な撮影。この頃はファントム、アグレッサー(迷彩塗装の飛行教導群)、黒馬(23教育飛行隊)など様々な飛行機が見られたため、鹿児島から三時間かけてよく通いました。10ページではついに、ファントムが新田原を去る日を撮影。もはやファントム限定の航空祭のような機動飛行を見せつけて、最後は消防放水のアーチを潜って百里基地に移転して行きました。この時も寂しかったですね〜。

 12ページは那覇基地から百里基地に移転してきた302飛行隊(オジロワシ)。もともと千歳基地発祥の部隊でしたが、結果的に日本を縦断する勤務となりました。2013年に初めて百里基地航空祭を訪れましたが、天候不良でリベンジを決意した思い出があります。白オジロの飛行シーンは2018年松島基地航空祭で、ブルーインパルスの格納庫から慌てて撮った一枚。ファントムの対地武装や対艦武装は珍しい展示ですね。

 14ページは岐阜の飛行開発実験団。最も長期に渡ってファントムを飛ばした歴史あるチームとなりました。私が貴重な平日連休に無理して岐阜遠征した二日目に、301番の初号機が最後の百里フライトへ飛び立った貴重なシーン。翌日岐阜へ戻った時には、トラベルポッドにパイロットや整備員のサインをたっぷり貰ってきたそうです。15ページのスクランブルは分かりづらいと思いますが、後に黄色特別塗装機に採用された315号機の実弾搭載スクランブル発進。長く基地に通っていると貴重な写真が撮れるのも、大きな魅力の一つですね。最近は少なくなりましたが、フォーメーション・テイクオフ(二機同時発進)も新田原では日常茶飯時でした。16ページは後書きみたいな扱いですが、艦載機特有の着艦フックや激しい機動飛行時に発生するヴェイパー(霧)、アグレッサーの頭上を飛ぶファントムなど、私が好きなカットを集めました。

 18ページは黄色特別塗装機。青色は撮る機会に恵まれず残念でしたが、すでにスクラップにされたそうで、どれだけ貢献しても元の状態で残れる機体はごくわずか。だからこそ写真や動画で記録する行為は、時間が経てば経つほど大きな価値を生むと思うのです。私がカメラにハマって長いですが、その姿を見て育った娘が高校生になり、「お父さん、写真部に入りたいからカメラちょうだい!」と言ってくれたことが何よりの収穫。幸い幾つかの客観的評価も頂き、写真家としては脂が乗りかけた時期を迎えましたが、家族が認めてくれるというのは、これは大変大きいです。娘に恥じない写真を、これからも撮り続けます。

 写真集を購入ご希望の方はこちらのページをご覧ください。発送に1ヶ月ほどかかる場合もございますが、予めご了承下さいますようお願い申し上げます。御苗場のオンライン展示は5月14日(金)より、会場展示は5月20日(木)より開始。土日は在廊しますので、写真集をご覧になりたい方はぜひ3331 Arts Chiyodaへお越し下さい。