展示作品の解説について

航空祭や基地ローカルで戦闘機を撮り出すと、旅客機や電車に比べて被写体が小さくスピードが速いため、より高性能のカメラや長射程のレンズが欲しくなる。加えてより良い条件を確保するには、エアバンドレシーバーや脚立、折り畳み自転車に車中泊セットなど、たかが写真を撮るために膨大なリソースを消耗する。

 そんな機体の拡大・高画質競争に疲れ果てて、齢50間近ともなると機材の軽量化に走る。潔く大砲を諦めて、振り回せる重さの機材で勝負する中で、自分が良いと思う写真が必ずしもレンズの重さや長さ、金額に比例しないことが分かってくる。私が最初に感銘を受けたのは、美しいスモークを引きながら空を舞うブルーインパルスを、地上で指挿したり手を振ったりしている人々の、背中。視界と同じくらいの画角でも、はしゃいでいる彼らの感情がはっきりと表現されている。これはなんと美しい記録だろう!そう思って、望遠拡大競争に囚われず画角全体に気を配るようになったものです。

 そうは言いましても、基本的には疲労でダレない程度に、好きなように撮るのが楽しい。面白そうだなと思えばレンズを向ければいいし、目で追って記憶に刻みたいと思えば、カメラを置いて同じ視線を仰ぐみんなと、感情を共にすれば良い。写真は結果ではあるけれど、決してゴールではないのだ。

 前置きが長くなりましたが、2019年2月の横浜御苗場で出展した写真は、アメリカ太平洋空軍F-16デモフライトチームのメンバーが、機体を前に肩を組んだ写真。彼らは背を向けているのでポートレートではないと思われますが、デモフライト前の精神統一や仲間への感謝、機体へのリスペクトなど様々な感情が読み取れて、コリャ傑作!と自画自賛。事実この写真はInstagram掲載時にデモフライトチームからメールで高画質データの提供依頼を受けたり、御苗場のチャリティーオークション作品に選出・¥7000で猫写真家の沖昌之さんに落札されるなど、一定の評価を頂きました。

 やはり写真は、画角内に宿る生命の煌めきか、または画角に対して沸き起こる自分の感情かが、作品の評価に繋がる要素であると思います。そういった意味では時代背景や時間要素など、あらかじめセッティングして追い込む事は十分可能であり、写真撮影技術の一端に含まれるのではないでしょうか。さて、御苗場vol.28東京開催で出展する私の作品は「Get Wild‘19」航空自衛隊百里基地にかつて所属していた第501偵察飛行隊のスナップ写真で、デモフライトを終えて基地に戻るパイロットを撮影。構図的には前回と対の関係となり、今回の作品をもって私の飛行機撮影生活の集大成となるべく注力してきました。

 タイトルのGet Wildは1980年代に活躍したTM  Networkの代表曲で、2020年にGet Wild退勤というキーワードで再ブレイクを果たし、またアニメ・シティーハンターの主題歌としても有名。中学生の頃初めて買ったカセットテープがTM Networkのアルバムで、青春時代のBGMとなったのですが、この写真をInstagramにアップした時に、なんとGet Wildを作詞した小室みつ子氏からイイネを頂き感激しました。Get Wild にはいくつものアレンジバージョンがあり、有名なものはGet Wild ‘89。20年後のテーマに相応しいと思って命名しました。

 この写真の他に何を出展しようか迷いましたが、前回の御苗場では8枚も展示した挙げ句インパクトが薄れてしまいましたので、思い切って壁全面を覆う超巨大サイズでの一枚展示を決意。きっかけとしては、横浜で拝見したみなとみらい写真展で同じようにB0サイズのタペストリーを展示された方がいらっしゃった事と、鹿児島の大庭カメラマンの展示を参考にしたおかげ。パクったと言われればそれまでですが、妻ですら「タペストリー流行ってるみたいね」とご存知だったので、どのような反響が得られるか楽しみです。作品の紹介動画はこちら。なお5月14日からオンラインイベントが開催され、歌手チャゲさんのトークショーもあります。申込みはこちら