さらば横田基地

横田基地はアメリカ空軍の輸送機の基地だが、年に数回戦闘機が飛来する。幸運な事に単身赴任先の社宅が自転車で10分ほどの場所で、空軍基地の近くに住む事が永年の夢であったが、ひょんなきっかけで叶ってしまった。鹿児島時代は最寄の新田原基地でも車で3時間掛かっていた事を思えば天国である。空母艦載機のF/A18Eスーパーホーネットや三沢基地のF16Cファイティングファルコン、韓国オサン基地のA10Cサンダーボルト2などが飛来すると横田スポッターに限らず全国のミリタリーマニアが集まり、社会現象まで発展する事も。近年は岩国基地海兵隊のF35Bライトニング2が週末に飛来し、戦闘訓練を行うようになる。わざわざ休日に本拠地以外まで遠征し訓練しなければならないほど有事が近い事情を想像すれば、必ずしも喜んでばかりはいられない。

 さて今年は3月10日に4機のF35Bが飛来し、1日に3回ほど離着陸を繰り返して、1時間あまりの訓練を行った。ちょっと立ち寄った程度ではなく、金・土・日ほぼ同じスケジュールでローカルフライト。平日動けないサラリーマンにとっては理想的な展開で、私も撮影に成功した。ただこのスケジュールは公に公開されず、日常的に航空無線をワッチ(傍受)するマニアが「横田クリアランス(横田基地への飛来スケジュールが確定した)」とSNS放流し(電波法違反)、ハッシュタグ#横田基地などでSNS監視している撮影マニアがフェンス沿いに集まる。私は動きが分からなかったため、土曜日は自宅で寝転びながら離着陸の音でスケジュールを把握し、サード(午後2回目の訓練)が上がった時点で自転車に飛び乗り、横田基地ランウェイ18エンドへ向かった。もちろん早朝から基地に張り付けば撮りこぼしは防げる可能性が高いのだが、先日の百里基地インド空軍のように1週間一度も飛ばないという悲劇も普通に起こり、待ちぼうけで貴重な時間を潰すのは耐えられないため、情報収集と読みが撮れ高のコスパに反映する。

 今回は滞在わずか1時間でオーバーヘッドアプローチからの2機編隊ブレイク、着陸をバッチリ撮ることができ、申し分ない収穫を得られた。これに味をしめて翌日曜日は朝から自転車で向かったのだが、これが良い結果を産まなかったのである。その日横田基地ランウェイ18エンド東側に集まったマニアは100名ほど。基本的にフェンスから離れた歩道に脚立を畳んで置き、無線でCleared for takeoffを聞いたタイミングで脚立をフェンス前に立てて離陸を撮り、撮ったらすぐ撤収していた。基地や通行人に極力迷惑を掛けない最高の気配りが感じられ横田スポッターの優秀さを見て取れたが、残念ながら住民あるいは基地からの通報を受けた福生警察署のパトカーが駆けつけて、脚立(なぜかしきりに三脚と連呼)を歩道に立てること、基地内を撮影する事について中止を促し、撤収するよう求められたのである。

 以前は路上駐車のみが取り締まり対象となり、民家の前に違法駐車していた車両が切符を切られていたため、私は自転車で駆け付けられるよう伸縮脚立を背負うスタイルを編み出したのだが、これで撮影自体が歓迎されない事が確定してしまった。普通の感覚であれば「ダメな事なら辞めよう」と思うところであろうが、一部のマニアはパトカーが去った後にも撮影を続けていた。私は興醒めし、18エンド西側の国道16号沿いへ移動。脚立を使わず撮れる範囲で撮影を試みたが、驚いたのがこちらでは飛来タイミングに合わせて、片側4車線の国道を脚立を担いで横切るマニアが大勢いた事。西側の道路は横断歩道が無く、しかもフェンス側の歩道は米軍管理なので私有地。ここを渡って撮影するという事は道交法違反と不法侵入のダブルコンボなのである。わざわざ看板もあり警備の巡回もある中、見ないふりで危険を冒して撮りに行く。これが横田スポッターの実態なのである。

 もちろん横田基地に限らず、百里基地北側歩行者天国の駐車やくの字エリアでの撮影、築城基地堤防に新田原の畑など全国の基地で様々な問題があるが、通報されるほどの悪目立ちを起こしてしまっては、この趣味に未来はない。その恐怖感に支配されてか、伸縮脚立の足のロックが甘く暇を持て余して脚立に飛び乗ったショックで縮んでしまい落下、左肘と左膝、望遠レンズの先端をアスファルトで強打してしまう。血だらけ傷だらけ、レンズフードのロックも壊れてしまい、満身創痍で基地を後にした。なんだかどっと疲れてしまった。撮影のマナー云々を説教するつもりはないが、世界情勢を鑑みると現実的に紛争が起こっており、自衛隊はともかく米軍基地は有事並に神経を尖らせている可能性が高い。今後逮捕者が出るかもしれないし、一番恐ろしいのが、交通事故で被害者が出ること。せっかく住民と基地とスポッターとの良好な関係性が、誰かの過失でバランスを乱す可能性がある。個人の意見だが、そのように映った。私が撮影を継続するかと問われれば成り行き次第と言えなくもないが、事実はしっかりと受け止めて、他人に迷惑を掛けず自分を守れる撮影ができれば良いなと思う。他のスポッターに対しては、撮影に殉じて身を滅ぼすのは見たくないので、自己責任と他者に与える影響という点について、もう少し気を配るべきではないかなぁと。航空機撮影という素晴らしい趣味を持続するために考えなければならない事があると思った、ほろ苦い体験。

瑞穂町役場からの警告

(なお後日羽田空港でも迷惑系Youtuberを締め出す注意喚起が行われた)