随分前に関東防衛懇話会という自衛隊OBや支援者が所属する団体に加入させて頂いた。主に関東圏での活動が中心だったため長く活動に参加できずにいたが、ひょんなきっかけで私が鹿児島を離れて都民となり、会長さんが同郷という事で色々と気にかけて頂いたお陰で、今回陸上自衛隊大宮駐屯地に所属する第32普通科連隊のレンジャー帰還式を取材させて頂ける事になったのである。12月に唯一残っていた代休を充て、車で向かった所通勤ラッシュアワー渋滞にハマり、大宮駅での集合時刻に間に合わない事が判明。会長に相談し現地集合に変更させて頂いたのだが、最寄りの駐車場を確保できた事も功を奏し、結果的に早めに到着してしまった。関懇の皆様と合流し、まずは広報班長さんを紹介頂いて、自由な撮影の許可を頂いた。今日はTVや雑誌の取材も入るとの事で、彼らに負けないよう食い付きたいものだと密かに闘志を燃やしつつ待機場所の講堂へ。これまでの訓練の様子を捉えた写真を興味深く眺めていると、隊員ご家族向けのオリエンテーションが始まったのである。
オリエンテーションはパワーポイントでしっかりと作られた資料を基に、おしゃべりが大好きという担当者の自己紹介から始まり、訓練内容や帰還後の隊員の心身のケアなど、非常に参考になる内容だった。自衛官は非日常での特別な活動が目的とされ、一般的な大衆よりも基礎体力や技能が特出している必要がある。特に精神面において、事件や事故、災害を前に恐怖で立ちすくむようでは職務が成り立たない。防衛大学校においても入学後速やかにこれまでの常識を捨てさせられ、絶対服従や予測できない事象への対応など「理不尽」を経験させられる。レンジャー教育とはまさに、理不尽に耐えながら心身を研ぎ澄まし、鋼の強度に鍛造する訓練過程なのである。参加者は各部隊から推薦または志望するが、ケガや諦め、指導官の見極めにより半数以上の脱落がザラで、今回の帰還者は僅か3割の10名。しかもレンジャー教育を修了しても幹部レンジャーや冬季レンジャーなどさらに怪物を育てる過程があるそうなので、人間はどこまで鍛えられるのか、空恐ろしい気もする。
内容の濃いオリエンテーションが終了し、富士山の裾野から帰還するレンジャー候補生を出迎える列を作った。好きなように撮れと言われても元々が臆病なチキン野郎のため、ここは一つ自らの好奇心に火が付くまでじっくりと観察する。オフィシャルカメラマンの構える位置が最前線と判断し、ダッシュで被写体に迫る。出迎える隊員たちが放り投げるクラッカー爆竹の煙が立ち込める中、気力だけで行進する1列縦隊を確認、望遠レンズで切り取った。眼差しは虚で、助教の最後の檄が、そして「レンジャー!」の答礼が響く。涙を我慢しながら、ここまで頑張って耐えた隊員の皆さんの気持ちに寄り添いつつ、仕事に集中した。整列を終えて帰還式が始まり、司令の挨拶ののち、夢にまで描いたレンジャー徽章が一人一人に授与される。そしてご家族や友人代表者から花束の贈呈。感情が溢れる隊員も居れば、嘘か誠か信じられないような不思議な面持ちの隊員も。恋人からの包み込むようなハグを見て、我慢していた涙が溢れた。
最後に記念写真を撮ってレンジャー帰還式は解散。噂によるとその後は所属部隊の仲間から歓迎されたり、ご家族との会食で賑わったそう。彼女さんにプロポーズを成功させた方もいらっしゃったそうだが、そりゃもう人生で一番輝く瞬間だから、どんな望みでも叶うわな。心からおめでとうと申し上げたい。