月丼、と呼ばれる撮影方法がある事を知りました。飛行機関連のフォトコンテストでは必ず誰かが応募している、飛行機界隈では割とポピュラーなターゲットですが、その手法とは月の表面に飛行機をシルエットで写し込む事で、特に月の面積が最大の満月前後がチャンスと言えます。台風が通過した関東地区は秋晴れが広がり、別の撮影で湘南を訪れた帰りにも車中から美しくまん丸い月が地表からひょっこり飛び出した様子を眺めつつ、渋滞から抜けられずに撮り損ねたモヤモヤを抱えておりました。翌日は都庁でオリンピックの名残を取材予定でしたが、急きょ思い立ち、そのまま羽田へ向かうことにしたのです。事前に月丼について情報収集したところ川崎市の公園か羽田空港が定番とあったので、当初はミライトワとソメイティ用にGR3だけだった機材リストに、K-3Ⅲと200、300、150-450mmのバズーカレンズ、x1.4エクステンダーに三脚とレリーズを追加した超望遠仕様へ。重量がハンパないですがキャリーケースのタイヤがバーストしてしまったので、リュックとワンショルダーに分散させての手持ちに。赤ちゃんを抱えるくらいの負担になりましたが、ひょんな事で母の偉大さに気付かされてしまいました。都庁では大げさな手荷物を怪しまれてか警備員に遮られてしまったのですが、何のことはない、今から都知事が通りますので!という意味でのシャットアウト。初めて開庁中に訪れた都庁で小池百合子都知事を拝めるとは、引きの強さに我ながら呆れます。
サクッと取材を終えて、以前気に入った新宿駅のカレーハウス11イマサでメガカレー¥840を投入。トッピングのボリュームが凄まじく、特にチキンカツは美味でした。山手線と京急を乗り継ぎ、16:30に羽田空港第二ターミナルの展望デッキへ。右端のポイントには既に一人ジッツオのカーボン三脚とジンバル雲台を備えたNikonさんが待機していらっしゃったので、隣でセッティング。私も雲台故障のためメルカリで入手した中古のジッツオ雲台を試運転がてら持参したのですが、いや〜流石の高性能!デメリットはお値段だけかよと驚嘆させられました。とりあえず150-450mmを雲台に据えて、まだ試していなかったx1.4のエクステンダーを装着。テレ端開放でf8となり、これまで挑戦した限りではピンボケ連発で実用に耐えないと思っていたのですが、PENTAXの技術力を結集し満を辞してデビューしたAPS-CフラッグシップK-3 markⅢの描写は抜群で、テレコンの影響を全く感じさせません!フルサイズ換算で964mm、これなら満月も、日章旗くらいの画角で撮れる事でしょう。
日が暮れるまでの間に、珍しく北風運用だった34Rの降りと上がりを撮影。金鶴と呼ばれているJALオリンピック特別塗装3号機エアバスA350-900が降りてきたりボーイング777が上がったりと、仮に月丼が撮れなかったとしても充分な収穫で、テンションの高まりと共に日暮れを待ちます。昨日と違って地表から雲が湧き、アプリで確認した月の出時刻になっても予想方向の明るさは変わらず。やっぱり今日は難しいかなと諦めかけていたその時、真っ赤で大きな月が雲の影からピョコンと飛び出し、月丼の御膳立てが整ったのです!よく言われる「日頃の行いが」良かった結果かどうかはさておき、あえて興奮を鎮めるかのように淡々と焦点を合わせ、満月をフレーム中央にセット。あとは飛行機がフレームインしたタイミングで連写するだけでしたが、難しさと言えば、やはり出始めの月は上昇速度が非常に早いのでこまめな角度調整が必要な事と、雲が多いため満月の状態を撮れるのは実質数分ほど。その数分の間に、離陸する飛行機が私と月との間を横切るかどうかはまさに、神のみぞ知る展開でした。
まるで的を射抜く流鏑馬のような感覚で矢である飛行機の進路を見定めましたが、これが基本的にかすりもしない。様々な条件が重ならないと撮れない飛行機写真家憧れの月丼は、この日有名なルークオザワ氏も隣の第一ターミナルで撮られていらっしゃったそうですが、18:33、弧を描いて南へ向かうSKYMARK沖縄便ボーイング737と思われる機体が、ついに月への突入を開始したのです!もちろん見かけだけの話ですが、カメラの液晶画面ではハッキリと月に機影が重なり始めたので、レリーズのシャッターボタンをプッシュ。秒速10コマの高速連写で33枚、見事月丼の撮影に成功したのです。ちょうど月を支点に右バンクするような軌道で、しかもBeacon Lightが光った瞬間を激写していました。結局今日はこのワンチャンスだけでしたが、777(トリプルセブン)などの大型機が有利と言われる中、比較的小さい737を、月に被さるほど大きく写し込めたのはまさに、ビギナーズラック以外の何者でもありません。思わず「ヒャッホーゥ!」と叫んでしまいました。娘にLINEで送ると、鹿児島の家族も満月撮影に繰り出したようで、中秋の名月を一緒に楽しめたのが何よりの収穫でした。写真を長く撮ってて思うのが、撮れた瞬間が最も興奮します。心境としてはそのまま緩やかに冷めていき、現像する頃にはただのメイクアップ作業になっていることが多いのですが、SNS等で公開すると喜ばれたり、疎遠になっているお友達とコミュニケーションを図るきっかけとなったりするので、もっと良い写真を撮ろうという気持ちになります。月丼に関して言えば今回の構図を超えるのは非常に難しいと思いますが、機会があればまた、満月をFly overする飛行機を撮りに出かけたいものですね。
追伸、二日後の9/23には菅総理大臣がクアッド(日米豪印戦略対話・四カ国首脳会談)に参加するためワシントンD.C.へ向かうと知り、朝8時に再び羽田空港へ。常識的に考えても早朝の出発は考えにくいのですが、機材は航空自衛隊所属の政府専用機「Boeing 777 300ER」のチャーターで、副務機(予備機)を連れて22日の昼には千歳基地から羽田入りしていたため、絶対にチャンスを逃さないためにも朝から出陣しました。電車の中でTwitterを更新すると、二機並んだ画像がちらほらアップされているようですが、どうやら発着便の機内搭乗者しか撮影できない場所に駐機されている模様。第一ターミナルで撮影していた常連さんと思われる重装備のカメラマンに尋ねてみると「P3か2タミ、C(滑走路)上がり」という、羽田スポッターであれば常識的であろう呪文のような一言を頂いて覚醒!すぐさま第2ターミナル左手の第三駐車場(P3)へ行ってみるとようやく尾翼の日の丸を視認し、フェイクでなかったことを確認できました。
俄然テンションが上がって、2タミへの連絡通路で1枚、2タミ展望デッキ左端で金網(パンチングメタル)越しに1枚と、ようやく今日のターゲットに接近することができたのです。しかし残暑の戻りで照りつける日差しの中、体を冷房で冷やしながら待ち続けたものの機体は期待に反してピクリとも動かず。改めてTwitterで確認すると、午前中は宮中行事に参加したと知り愕然!その後ニュースで夕方出発と報道されたので、昼過ぎに地下のてんやでランチ後、無料シャトルバスで第三ターミナルのLuxury flight x Highrateへ移動。元アグレッサーパイロットのハチさんは不在でしたが、moboさん作の超かっこいいシグナスのパッチをゲット!イベントにちなんだ良いお土産もできたので、ここは確実に政府専用機を仕留めたいところです。
2タミに戻りANAのオリンピック記念塗装機を撮影しつつエアバンドを聴いていると「菅総理16:10搭乗です!」のスクランブル・アラート!Twitterではちょうど飛行機の前で記者会見を行なっている最中でしたが、アメリカに向かうデルタ航空が二機離陸したのち、一機目のJF001が16:20にRunway 16L cleared for takeoff!ついで16:40にJF002が、夕日を浴びつつ優雅に飛び去っていきました。菅総理がどちらに搭乗しているかはトップシークレットですが、TVで見た限りではJF001に座乗されたご様子。おそらくは自衛隊の早期警戒機やレーダー施設で航路周辺をがっちり監視していた事でしょう。後から駆けつけたお友達によると、政府専用機はデルタ航空と共に出発することが多いそうで、米軍の防空システムを共有する環境にできるのかもしれません。
翌朝アメリカに無事到着し、最後の首脳会談を始められた模様。在任中最後の外遊で、しっかり「高市総理」への引き継ぎをお願いしたいところですね。