梅雨前線の影響で過去最大級の氾濫を引き起こした球磨川流域の浸水被害を視察する目的で、安倍総理が熊本県人吉市を訪れる事を知りました。首相の公務移動は、通常であれば航空自衛隊が運用する政府専用機を利用しますし、つい先日にも阿蘇くまもと空港で、新しい政府専用機のタッチ&ゴー訓練が行われたばかりだったので、羽田から熊本空港に降りて、そのまま空港に隣接する陸上自衛隊高遊原分屯地からヘリコプターで現場入りかなぁと推測。どのみち日中は仕事があったので、奥歯を噛み締めつつ遠征を断念しました。
7月13日の朝に首相動静が発表されましたが、それによると今回は政府専用機を使わず、航空自衛隊のC-2輸送機で鹿児島空港に着陸し、車で移動する予定とのこと。急な視察のため、通常は北海道の千歳基地に駐機している政府専用機を使えなかった事もあるでしょうが、新型コロナウイルスや浸水被害が拡大する中、迅速かつ最小限のリソースを用いて視察に踏み切ったのではないでしょうか。またCー2輸送機は戦車や110名もの人員を運べるほどの積載量を誇り、随行の視察団も多数いらっしゃったようなので、最新型国産輸送機のお披露目の意味もあったのかも知れません。
さて、首相と言うよりもCー2が初めて鹿児島に来る事を知った私は、仕事をしながらもワクワク・ドキドキが止まりません。手早く作業を終わらせたかったところですが、ちょっと微妙な結果が出たので組み直しを余儀なくされ、片付けた後は昼食時間中に無理やり二件目に突撃したものの、想定外の初めて触る機械!簡単な作業のはずがマニュアル検索から始めるという段取りの悪さで、これも予想以上に時間を食いました。さらに1時間ほど時間をかけて一旦帰宅し、脚立と昼食を積んで高速道から空港入り。ツイ民(twitterの皆様)の情報では15時ごろ離陸予定との事でしたが、ギリギリ間に合わせました。まさにスクランブル発進ですね。
おまいつ(おまへいつも居るなぁの略)な顔馴染みの面々と挨拶を済ませ、消防署隣ポイントと呼ばれる管制塔向かいのフェンス際から、滑走路南側に駐機する2機のCー2輸送機と、北側にいたCー1輸送機を偵察。政府専用機の2機運用は、どちらに要人が乗っているかテロリストに分からないようにする目的がありますが、今回もそれを踏まえたのかも知れません。いらっしゃった方の話では、視察団の車列を常に県警のヘリコプターが上空から追従しているため、フライトレーダーというアプリで県警ヘリを監視すれば、首相の現在地が一目瞭然であるッ!と教わりました。スパイ天国の日本、大丈夫か?
そんな貴重なネタを仕入れた矢先、バタバタと音を響かせて鹿児島県警のヘリコプターが空港上空へ現れたのが、予定通りの15時過ぎ。何でも管理区域が県境までなので、加久藤峠以北は熊本県警が追従したそうです。もちろんSPだけでなく爆発物処理班も待機していたそうで、警備には多くの手間が掛かった事でしょう。程なくして消防の指揮車を先頭に、四輪駆動車、黒塗りセダンと続いて、地元のアーベル交通の大型バスが連綿と滑走路に進入してきました。首相の姿はCー2の機体に遮られて確認できませんでしたが、夕方の会議に間に合わせるためか、テキパキしたトーイングでタキシーウェイに進入し、北側のランウェイ16よりサクッと離陸。150-450mmのレンズでは盛大にはみ出しましたが、肝心な自衛隊最高司令官旗を収める事に成功。素早く左側へバンクして、羽田空港へと帰って行きました。ちなみにアメリカ合衆国の大統領専用機は、コールサイン「エアフォース・ワン」が有名ですが、日本の首相座乗機は「アキツ・アルファ」と呼ぶのだそう。秋津はトンボの別名ですが、古来日本国を「秋津島」と呼んでいたので、意味合い的には日本で一番の要人が乗っていることを表しているのでしょう。
その後小さなCー1輸送機が戦闘機のような急角度で離陸し、さらに30分ほど経ってから、視察団を満載したもう一機のCー2が上がりました。2機同時運用ではありませんでしたが、万一のためにCー1が弾除けの役割を果たしたか、新田原や築城から護衛の戦闘機が上がったかもしれません。主観ですが安倍総理は、決断が早く、どちらの選択がより多くの実りをもたらすかの嗅覚に長けているように思います。未曾有の大災害と認識して被災直後の人吉市を訪れた事は、被災者だけでなく、全国から応援に駆けつけた自衛官の皆様への激励にも繋がった事でしょう。波乱に満ちた令和の幕開けですが、我々一人一人から国難に立ち向かって、未来を切り拓いていきたいものです。
■付録:この日の首相動静(時事通信社)