Go to 浪漫飛行

当サイト”Alert hangar”の名称は、アラート任務中スクランブル待機する軍用機の専用格納庫が由来で、準備を整えていつでもお手伝いするぜ!というメンバーの気概を示し、かつ空や航空機にまつわるイベントを立ち上げようと1年前から構想を練りました。

 結果的には食い倒れ、または屁っぴり腰なんちゃって登山(遭難多め)レポートの呟きサイトになってしまいましたが、これはこれで楽しかったので少しも悔いはありません。新型コロナウイルスの影響でビジネス路線に誘導し難い側面もありましたが、このたび、当初構想を相談していたパートナー様より、空撮の依頼を賜りました。いわばAlert hangar生みの親というべきRandy氏の頼みであれば九州最後の仕事に相応しいと即断し、引越し準備でてんやわんやの週末二日間を確保して、阿蘇くまもと空港へと向かいます。

 パイロット候補生の訓練密着取材というテーマで、座学やブリーフィング、フライトスケジュールの申請、プリフライトチェックなどを視察。訓練飛行にも同伴させて貰えることになったので、宣伝素材として映えるように携行レンズや設定を取捨選択しました。最初は門外漢ならではの疎外感で躊躇していましたが、訓練生の無線応答内容をチェックするため「誰かレシーバー持ってる?」と声が上がったものの誰も手を上げない中、カメラマンの自分がKMJ熊本空港タワー・グランド他関連周波数オートスキャン登録済みのIC-R6をスッと差し出すと流石に驚かれ、初めて仲間に入れて頂けたような気がしました。マニアもたまには役に立つものです。

 1時間強の飛行訓練は訓練生がスケジュールとヘッドセットを持って先に機体へ到着し、燃料やオイルの量、ラダーやフラップなど可動部の円滑な動作を確認後、ピトー菅のカバーとタイヤ留めを外してスタンバイ。教官到着後にチェック事項を報告し、離陸手順の打ち合わせ後タワー(管制塔)へ無線で離陸許可を求めます。これまで柵外でカメラ片手に傍受していたエアバンドの交信を目の前で繰り広げている様子に興奮しつつ、おなじみ”Runway 07 cleared for takeoff”のコールでタクシーウェイへ。T4(タンゴ4)進入路で待っていると大型機が目の前を大迫力のランディング!ひとたび操縦桿を預かれば、技量差を言い訳にできない一人前のパイロットとして、責務を求められる感じがゾクゾクします。

 大型旅客機でも離着陸は緊張しますが、訓練生が操縦する定員4名のエアロスバルは滑走も離陸もフラフラで、常に最悪の事態を想定させられます。遊覧飛行ではないので仕方ないですが、空の男たちは自己責任という言葉の重みをすごく理解しているようですし、私もプロとしてしっかり撮影するのみと腹を括り、できる限りのアングルを狙ってトライしました。主に15-30mmで操縦中の機内を撮りつつ、景色は200、300、450mmを使い分けて撮影。一日目は快晴でしたが基本的にガスが強く、光も拡散されてなかなか景色にピントが合いませんでしたが、この日はtouch and go後の着陸が日没後だったため、煌びやかな進入灯に向かう着陸直前の美しいショットを確保できました。データを携帯転送、Lightroomアプリで現像しLINEで即納すると大変喜んで頂き、明日も頑張ろうという気持ちになります。

 夜はホテルでノーパソでの現像を試みましたが、初フライトかつ条件も悪く、結果も微妙だったため可視に耐えそうな数枚だけ納品して早めに就寝。朝は早起きして、熊本空港の外柵からエアライン撮影を敢行します。この時期夕日が滑走路延長方向と被るため、夕日を背に降りる航空機を有名な航空写真家ルーク・オザワ氏も撮影に来てるらしいと聞きましたが、朝は逆光で厳しい条件でした。この日は午前中と午後最終の2フライト同伴させて頂き、趣味半分で機体中心に撮影。エアロスバルという富士重工の機体は200機ほど製造された傑作機だそうで、ラフに降りてもしっかりコントロールできるし、上空での操作も軽快で乗りやすそうな飛行機でした。

 ただ飛ぶだけであれば操縦桿を支えるだけで可能ですが、高度の上げ下げや正確なターンなどはパワーとスロットルのコントロールが難しそうで、ついつい急角度になりがち。教官による30度バンクや失速からのリカバリ体験はジェットコースター並のGが掛かり肝を冷やしましたが、飛行機の挙動特性が体に染み付けば意外とコントロールできるものだなと感じました。座学中にベテランパイロットでも口じゃ説明できん!と仰った事があって、ケースバイケースのケースが多種多様に渡るという事なのでしょう。着陸の際の確認や操作パターンをしっかり理解する必要がありそうですが、正直自分もイケるかも?と思ってしまいました。

 最後のフライトでは空港に戻る前に、教官が気を利かせてか熊本市街地上空の短時間飛行許可を申請して頂いたので、練習がてら熊本城を旋回することに!訓練ルートは空港から八代海か有明海へ出るので撮影は難しいかなと思っていましたが、まるで気持ちを見透かされたかの如く、低高度でどんどん繁華街へ近づきます。ようやく水前寺公園や熊本城を視認し、明るい300mm単焦点で連写開始。汚れた窓越しでピントも合わない苦し紛れの撮影でしたが、数撃ちゃ当たる方式でなんとか熊本地震から復興中の天守閣を押さえる事ができました。

 2016年4月に震度7の地震が発生し、熊本城や主要道路、建造物などが倒壊。2017年の熊本復興飛翔祭で、復旧工事用の足場を組む前の天守閣とブルーインパルスを撮影しました。あれから未曾有の災害が立て続けに起こり、昨日までの日常が特別なご褒美であったかのように重苦しい日々が続いていますが、空を飛びたいという純粋な願いを、最適な手段で叶えてくれるパートナーがこちらにいらっしゃいました。自動車教習と同じで飛行機も、まずは乗らなきゃ始まらない。操った時間の長さだけ確実に技量が向上し、いつしか飛行機を手足のように操る事ができるようになります。エアラインパイロットや自家用機のオーナー、企業のテストパイロットなど進路は様々でしょうが、この閉塞感漂う地上からテイクオフするだけで、確実に自分のステージが上がったかのような錯覚すら覚えました。空撮だけでなくパイロット教習まで体験させて頂きました株式会社FLIGHT TIME様には、深く御礼申し上げます。

 また今回、GoProHERO7での動画撮影も平行で行いましたが、機内に立てたスタンドを足で踏み固定という荒技で、意外に綺麗な動画が撮れました。450mmの取り回しは流石にしんどく、機内でレンズやバッテリーを交換するたびに吐き気との闘い。重力に逆らわず酔ったら遠くを見て気分を紛らわす。耳がツーンとする事も多かったので、次回は飴玉を持ち込みたい。軽飛行機からの空撮は航空写真家としての密かな憧れでしたが夢は叶って、ドローンも含めてこの一年で本当にやりたい事をやり切ってしまいました。新天地の東京では、どんなドキドキが待っているのでしょうか。