肥薩おれんじ鉄道の旅

お盆の帰省(というか帰宅)は半年ぶり。前回は義父の急逝による弾丸帰省で法事のみ淡々と捌く遊びのないものだったが、今回は子供達へ夏の思い出を与えるべしという妻の強い要望で、代休と年休を駆使し日程を多めに割いての帰省計画だった。しかし数日前に発生した台風6号が迷走したおかげで、帰省便はおろか8月9日の羽田ー鹿児島便が全便欠航という事態に巻き込まれ、帰省計画全て吹き飛んでしまう可能性も。この日飛行機が飛んだ熊本まで移動したとしても熊本ー鹿児島間はJR、高速道路が封鎖され宿泊必須となったため、とりあえず出発の1日延期を決定。翌日の始発で東京駅へ向かい、一か八か新幹線での帰省を試みたのである。福岡から先は指定席が売り切れだったため、福岡より手前で自由席を確保できる新神戸で東海道新幹線から山陽・九州新幹線へ乗り換えることで終始窓際席を確保、富士山も雲が掛からず、朝は通行止めだった山口〜広島間も到達前に制限解除されて、7時間掛けて無事鹿児島中央駅までの移動に成功した。なお福岡ー熊本間は席が確保できなかった立ち乗り客で通路まで埋まった。東京駅で朝6時に開店した駅弁屋で調達した牛すき・焼肉弁当¥1300はご飯多めで美味しく、自販機で買ったずんだアイスも平らげたのだが、新幹線と言えども揺れる電車を体幹で踏ん張る作業は地味に体力を奪い、昼前には空腹を覚える。鹿児島中央駅近くの大好きなカレー店90番でビーフカレー¥600を補給し、30分掛けて徒歩で帰宅。仮眠後に息子とバイクで温泉へ出掛け、夜は鹿児島王将の餃子で帰郷を祝った。こうして無事に帰省を成し遂げたのである。

 娘が受験のため日帰り縛りで妻が考えたプランは、肥薩おれんじ鉄道の謎解きイベント。1日乗車券を使って4つの駅で読み込んだQRコードから出題されるクイズの答えからヒントを導き出し、シークレット駅を探し当てるという内容だったが、川内ー八代間を結ぶ第3セクター路線はこれまで撮影対象でしかなく、乗るのは初めて。肥薩おれんじ鉄道を舞台にした「かぞくいろ」という映画は有村架純主演にも関わらず興行的に振るわなかった問題作だったが、地元で試写会を観覧し仕事で絡んだ事もあって思い入れは深く、聖地巡礼も兼ねた試みであった。8月10日の朝バイクで15分離れた実家へ移動して車を借り、自宅で家族を拾って高速道路で薩摩川内市の川内駅へ。改札の場所が分からず唐突に訪れた最初のミッションに戸惑ったが、観光案内所で尋ねたら肥薩オレンジ鉄道の事務所と改札はJRのホームの上にあるとのこと!地元の方には常識だろうが、誘導看板すら設置されていないのはどうだろうか。沸点低めの妻の文句を尻目に無事一日乗車券¥2800を購入し、停車していた車両に乗る。幸運にも一両しかない「放課後ていぼう日誌」というアニメのラッピングトレインに乗れたのだが、奇しくもこの日同じ電車に何度も遭遇することになった。

 妻の提案で、とりあえず目的である4つの駅の中で1番遠い日奈久温泉駅を目指すことに。電車はワンマン運用で乗車時に整理券を受け取り、降車時に運転士か駅の係員に運賃を支払うシステム。今どき現金のみの潔いアナログ主義だったが、一部の駅ではPayPayが使えるらしい。鹿児島市内でも交通機関はラピカという意味不明なICカードが流通しており、当然Suicaとかは使えず、もはや外国である。天気は快晴で、夏の緑や空と海の青が眩しく、長くて細いトンネルや一直線に続く単線にもそそられる。あれ、乗り鉄こんなに楽しいの?新しい趣味に目覚めそうな落ち着かない時間を過ごしつつ、美しい景色を見逃さないようカメラを向けた。興奮も一段落し程よく手詰まり感と疲労を覚え始めた2時間半後、ようやく最初の目的地である日奈久温泉駅に到着。ホームに設置されていたQRコードをLINEで読み取り、簡単なクイズを解いてミッションクリア。戻りの電車が40分後だったのでとりあえず何か食べたかったのだが、駅の目の前に有名な日奈久ちくわの工場兼直売所を見つけたので行ってみた。焼きたてのぶっといちくわが¥100の割にボリューム満点で、海の旨味が凝縮された逸品!鮮度抜群のちくわである。

 古い駅舎で休憩し、40分後に折り返してきた電車はまたもや「放課後ていぼう日誌」。おそらく終点から折り返してきたのだろうが、今日の巡り合わせに苦笑しつつ水俣駅まで乗車。この辺りは仕事でよく訪れて土地勘もあったため、暑い中10分ほど歩き水俣ちゃんぽんが美味しい水交社コープくまもとのレストランへ。半年前に新築移転したばかりで流行りのタブレット注文を取り入れた斬新なスタイル。以前はビュッフェで食べ放題だったが、とりあえず大盛りちゃんぽんと珈琲味のかき氷を食後に選んだ。大量の野菜と白くてツルツルの麺はボリュームに似合わずスルスル入り、娘とシェアしたかき氷まで完食。特にかき氷は値段の割に美味かった。勢いで近くの蜂楽饅頭(いわゆる回転焼)でオヤツに白あん6個購入し、次は水俣から出水駅へ。これまでの経験でQRコードはほぼホームにある事が分かったため、改札を出ず数分間の停車時間にQRだけゲットして降りた電車に再乗車、最後の阿久根駅では娘が殊勝にもマジックアワーを撮りたいと申し出たため、時間調整でわざと一便遅らせる。水俣駅や阿久根駅、川内港の高速船ターミナルはJR九州の車両デザインで有名な水戸岡鋭治さんの設計で、木材を多用したエアコンが効いて過ごしやすい環境。寄贈された文庫本など読みながら各自旅の思い出を反芻しつつ最後の旅へ。

 結局シークレット駅はどこだろうかという推測は、これも推理好きな妻が早々に予測した通り、クイズで明かされたヒントは「始着か終着の駅」。つまり八代か川内なので、スタート地点に戻ればミッションコンプリートなのである。東シナ海に沈む夕陽は美しかったものの爆焼けまでは至らなかったが、家族揃って美しい景色を拝めたことは何よりのご褒美であった。すっかり暗くなった川内駅へ戻ったのは夜7時。疲れた体を引きずってQRコードを探したが、ホームにも改札にも見つからない。窓口も閉まっていて途方に暮れたが、おそらくは窓口に申告してQRコードを見せてもらう仕組みで、営業時間内でないと無理だったのだろうと諦め、車で帰途に付いた。帰宅まで我慢できず途中のジョイフルで夕食を摂ったが、最後はモヤモヤする結果に。妻は諦めきれず肥薩おれんじ鉄道にメールで苦言を呈したら、お詫びと共に最後のQRコードを送って貰えたため時間差でミッション・コンプリート!無事景品の浦安にある某遊園地ペアチケットに応募できたのである。浦安の遊園地ってどこなのかな?ミッションは、続く(笑)。